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さっきまで異世界トリップを夢みていたのに、今は現実世界に心躍っていた。
「う、うん! 私で良かったら、ここで働きたいよ。そんなふうに言ってもらえること、今までなかったし……」
「そ、それじゃあ……」
翔太の笑顔が弾ける。
あらためてよろしくおねがいします、とお互い照れながら頭をさげた。
「じゃあ……じゃあ、エプロン用意するな。お前の弟が言ってたケイヤクショもちゃんと作っとくから」
「うん、お願いします」
「ああ、兄さんに言ったら喜ぶだろな。兄さんと僕ふたりだけじゃ手が足りないって、今日骨身にしみたから」
語尾が跳ね上がっている。翔太の興奮が伝わってきて、星歌の口角もニッと上がっていた。
その兄──モノホン王子は、今は二階の事務所で帳簿つけや発注などの事務作業を行っているという。
星歌は気付いた。
朝方、モノホン王子に対して抱いたトキメキは不思議なことにきれいに消えていることに。
「兄さんはすごいパン職人なんだ。パリで賞をとったこともあって……僕も専門出てから大きなパン屋で修行させてもらったんだけど、なかなか兄さんみたいには……」
大きかった声が徐々に小さく掠れたものになって彼は一瞬、口を噤んだ。
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