もはや異世界しかない!

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「我が義弟、行人(ゆきと)に命ずる。我の靴を脱がせよ」 「ねえちゃ…………」  一瞬の沈黙の後、行人と呼ばれた男は玄関先で跪いた。 「はいはい。じっとしててください、星歌さま」 「お、おう……」  うつむいた行人のつむじを見下ろす格好になり、星歌は我知らず声を上ずらせる。  彼女の視線になど気付く由もない。彼は星歌の右足にそっと手を触れた。  無理して履いている幅の細い五センチのヒールに触れると、踵からそっとすべらせる。  力が入るたびに筋が浮き出る手の甲を見下ろしながら、星歌はゆっくりと息を吐いた。 「姉ちゃん、どした? ほっぺが赤いよ」  急に顔を上げるものだから、星歌は驚いたように声をあげる。  意外なほど近くに迫る行人の目、その大きな黒目に一瞬見とれたのだ。  そこには、ぼんやりと口を開けた自分の姿が映っている。 「ち、ちがう! ちがうよ?」  ブンブン首を振る彼女に苦笑を投げて、行人はその場に立ち上がった。 「あのさ、姉ちゃん……」  低い声が降ってくる。
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