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フランス人の菓子職人の母親から産まれたという兄は、やはり持って生まれた舌が違うのだろうと翔太は唸る。
純・日本人顔の翔太とは、どうやら母親が異なるらしい。
家族の事情はともかく、優秀な兄弟の影に追いやられる気持ちは星歌にもよく分かるというもの。
ウンウンと頷きながら聞いてやると、すぐに雇用主は元気を取り戻した。
「まぁ自慢の兄だからな! お手本が近くにあるってのは良いもんだよ。それにうちの兄ちゃん、ハーフでカッコイイだろ!」
ウンウンと頷くのが、何となく悪いような気になってしまう。
「や、チビデ……違う。藤さんもカッコイイよ?」
何で疑問形なんだよ、とブリーチ頭の男は笑う。
「藤が二人いたらややこしいだろ。僕のことは翔太……いや、翔太さんって呼んでくれたらいいから。敬語は苦手だし気楽にしてくれたらいいよ」
「翔太……さんだね。分かったよ」
彼の容姿から、ついつい「君」付けで呼びそうになるが、仮にも雇い主だ。
そうもいくまい。
神妙に頷いたところで、扉が開くベルの音。
「いらっしゃいませ!」
星歌と翔太、ふたりの声が跳ねるように店内に響いた。
「声ガラガラだね、星歌」
そこにいたのは彼女の義弟、行人である。
扉を入ったところで腕組みをした体勢。
星歌が見たことないほど目を細めてふたりに視線を投げる。
冷たい一瞥。義弟がいつになく機嫌が悪いのは明らかで、星歌は焦った。
「い、いゃあ、パン屋の繁忙期は運動会みたいだからね」
「は?」
ふたりの男がポカンと口を開ける。
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