241人が本棚に入れています
本棚に追加
「応援とか頑張ったら、ノド痛くなったりしたなぁと。そういう思い出もあったかなぁと……」
困ったように眉をひそめ、それから行人が静かに肩を揺らす。
どうやら笑っているらしい。
「……いや、星歌がアホなの忘れてた。あっ、アホじゃなくて天然」
「それ、言い直す意味ある? どっちにしろ私のこと小馬鹿にしてるよね!」
「してない、してない。事実だけを言ってる」
「そこだよ! あんたのそういうとこだよ!」
声を荒げながらも、どこかホッとしているのは確かだ。
行人の目がいつもの穏やかなものに戻っていたから。
蛇を連想させるさっきの目つき。
冷たい息吹に、心臓が凍る予感を覚えたから。
おつかれさまの声に送られるように、夕暮れの朱色の世界へと星歌と行人は吐き出された。
黙ったまま並んで歩を進めるものの、星歌の足取りは幾分重い。
最初のコメントを投稿しよう!