241人が本棚に入れています
本棚に追加
星歌、その場に立ち止まる。
ブルリ。
指先が震えていた。
「向いてなくないよ! バイトするって決めたんだから。それに、お母さんへの借金をなんで行人に手伝ってもらわなきゃなんないの。そんなの自分でするよっ!」
腹の奥が熱を帯びたよう。
自分でも驚くくらい、それは切羽詰まった声だった。
安定した職に就いて周囲から認められて、将来にだって何の不安もないであろう義弟から憐みの目で見下されている──そう感じたのだ。
「ご、ごめん、姉ちゃん。そんなつもりじゃなくて……」
行人が足を止める。
星歌のなけなしのプライドを知らず知らずのうちに抉ってしまったと、聡明な男は悟ったのだろう。
心底、焦ったように表情を歪める。
「や、違くて。あの……」
言い訳めいた調子で意味のない単語を呟く星歌の唇は激しく震えていた。
義弟を意味なく傷つけてしまったこと。
同時に自分も傷を負っていることに気付いたこと。
どうしてあんなに怒鳴ってしまったのだろう。
どうしてあんなにも腹を立ててしまったのか。
最初のコメントを投稿しよう!