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私の方が悪かったよ、ごめんね──そう言えば行人はいつものように唇の端を歪めて笑ってくれるに違いない。
ふたりでファミレスで食事をして、行人の家に帰ろう。
バカな話をして笑って、それから眠りにつけば、いつもと同じ明日が迎えられる筈だ。
──だが、そうはならなかった。
「行人、私がわる……」
星歌が口を開きかけたときのことだ。
無機質なバイブ音が響いたのである。
「あっ」と呟いて、行人が自身のカバンに手を突っこみスマートフォンを取り出した。
どうやら電話のようだ。
チラリと星歌に視線を送ったのは、通話するけどごめんねという目配せであろうか。
勢いを削がれたかたちになった星歌。
顎を引くようにして頷いてみせて、一歩後ろに下がる。
その瞬間、見てしまった。
愛想のない液晶画面に「石野谷」の文字を。
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