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行人の携帯を、本当に放り捨てる気はなかったし、壊すつもりもなかった。
ただ、少しだけ心臓の奥がざわついただけだ。
だから、反射的な動きで行人の左手が翻って、宙で軌跡を描くそれをつかんだのを確認したときは安堵したものだ。
同時に、液晶がまたもや瞬く。
刺すような光が視界を奪い、星歌の上体が傾いだ。
苦手なヒールのせいで数歩、よろけてしまう。
「わっ……!」
そのまま地面に尻もちをついた。
「何やってんだよ。大丈夫か、姉ちゃん?」
「うぅ……だいじょうぶ……」
とっさに右手を地面についたためか、怪我はなさそうだ。
少し右手首とお尻が痛いだけ──そう言うと、行人は大きな溜め息を吐く。
安心したというよりも呆れているようにも見て取れて、星歌は地面を見つめた。
「ごめん……」
どうしてあんなことをしたのだろうか。
電話に出た行人を咎め、その手からスマートフォンを取り上げようとした。
突然、感情が高ぶって身体が勝手に動いたのだ。
──ごめんね。私、昨日から……ううん、今朝からヘンなんだ。
このとき、そうやって言葉を紡げば良かったのか。
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