241人が本棚に入れています
本棚に追加
「な、なにっ?」
反射的に声が裏返ったのは、今日という日が最悪だったからだと星歌は自分に言い訳をした。
「姉ちゃん、ジャージ貸すから履いて。その格好、パンツ丸見えだよ?」
「えっ、ええ……?」
義弟の前だからと、いつもの調子で両足を広げて座っていたことにようやく気付く。
ヒールといっしょだ。頑張って履いた慣れないスカート。
少しでも女性らしく見えるようにと朝早く起きて巻いた髪も、睫毛だって、今やダラリと力を失っていた。
「わ、私のパンツを見たな!」
「見たくないよ。見せられたんだよ」
自分の方が被害者だという口ぶりで、行人はキッチンからカップを二つ持って奥へと行ってしまう。
玄関すぐの四畳半のキッチンスペースを、星歌はズルズルと四つん這いで進み、奥の八畳間に転がった。
その顔面目がけて、グレーのジャージが放られる。
「もっとかわいいやつがいいんだけど」
苦情を述べながらも、いそいそとスカートの下にそれを履く。
「……武家の長袴みたいだね」
「ブケノナガバカマ?」
最初のコメントを投稿しよう!