もはや異世界しかない!

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「な、なにっ?」  反射的に声が裏返ったのは、今日という日が最悪だったからだと星歌は自分に言い訳をした。 「姉ちゃん、ジャージ貸すから履いて。その格好、パンツ丸見えだよ?」 「えっ、ええ……?」  義弟の前だからと、いつもの調子で両足を広げて座っていたことにようやく気付く。  ヒールといっしょだ。頑張って履いた慣れないスカート。  少しでも女性らしく見えるようにと朝早く起きて巻いた髪も、睫毛だって、今やダラリと力を失っていた。 「わ、私のパンツを見たな!」 「見たくないよ。見せられたんだよ」  自分の方が被害者だという口ぶりで、行人はキッチンからカップを二つ持って奥へと行ってしまう。  玄関すぐの四畳半のキッチンスペースを、星歌はズルズルと四つん這いで進み、奥の八畳間に転がった。  その顔面目がけて、グレーのジャージが放られる。 「もっとかわいいやつがいいんだけど」  苦情を述べながらも、いそいそとスカートの下にそれを履く。 「……武家の長袴みたいだね」 「ブケノナガバカマ?」
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