夜空に降る涙

2/10
前へ
/139ページ
次へ
 それは、星歌のブレスレットの馴れの果ての姿である。  手作りのアクセサリーだ。  作られてから長い年月の間に中の糸が劣化していたのだろう。  僅かな衝撃で弾け、バラバラに壊れて飾りが落ちてしまったのだ。 「……行人は覚えてないよね」  震える指先が、小さな星をひとつひとつ拾い集める。  次第に星の輪郭がぼやけていくのが分かり、星歌は下唇を噛みしめた。  義弟の態度がいつになく冷たく感じられたこと、それ以上に押し寄せる自己嫌悪。  負の感情をいっぱい詰めていた水風船の残骸が、まだ腹の奥にこびりついているようだ。  押し潰されまいとするかのように、わざと明るい声をあげて現状を嘆いてみせる。 「あーあ、義弟も独り立ちだよ。や、とっくに独り立ちしてたよね、あの子は。もう私なんて完全に見捨てられちゃったよ……昔はお姉ちゃんって呼んでくれて……可愛くて……」  ダメだ。  拾い集めた星が、手の平でにじんで見える。 「リ、リア充はほっといて、もう私には本格的に異世界しかないようだね。いっそイケメン魔王にさらわれて城に閉じ込められたいもんだよ。城といってもアレだ。ベルサイユ的なアレなんだ。そして、寂しい過去を背負った魔王と恋に落ちるんだ……」  ハハッと力なく笑う。  いつもの妄想だが無理にでも笑ってみせたことで、幾分気持ちが明るくなった気がする。  カラ元気であっても構わない。  星歌はその場に立ち上がる。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加