241人が本棚に入れています
本棚に追加
暗がりの中でも目立つ跳ねっ毛の金髪だ。その中心部のつむじのあたりは闇に沈んでいる。
星歌の新しい雇い主である藤翔太だった。
身長に似合わず意外と逞しい腕、そして厚い手の平を唇に感じ、星歌は再び焦る。
パンをこねる手はやっぱりゴツイんだなぁ。だから私もビックリしちゃったんだなぁ──持ち主の意志に反して高ぶりそうな心臓を必死で宥めにかかる。
あたたかくて、どこか甘い香りがするのもきっとそのせいなんだ、と。
その手は遠慮がちに放された。
「ごめん。白川さん、ずっと一人で喋ってて……その、ちょっとよく分かんないことを一人で喋ってたから、大丈夫かなって思って。びっくりさせたよね……」
「い、いや……」
しっかり聞かれていた模様。
──ヤバイ! 「一人で喋って」と二回言われた……。
星歌の背を、冷たい汗が伝う。
薄暗い道なので、恥ずかしさに赤く染まった顔を見られないのだけが救いだ。
視線を逸らしつつ、星歌は一歩、二歩と後ずさる。
「そ、それで、何用で……?」
最初のコメントを投稿しよう!