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「お前にはわかんないんだよ!
俺の気持ちはっ!!!」
俺はほのかに木の香りがするコテージの中、そう叫んだ。
「いつもいつも期待されて、絶対に失敗出来ない所に立たされる。わかるかよ!このプレッシャー!」
現場はシーンと静まり、呟く声だけが目立って聞こえた。
「もう、無理なんだよ。
耐えられなかったんだよ……俺は…………」
一筋の涙が頬を伝い、そして、床の木を茶色く染める。
膝から崩れ落ちたから、少し痛かった。
「ごめん……母さん……」
「……はいカット!」
今日は撮影最終日。
監督が俺に近付いてくる。
スタッフからティッシュを貰ったが、監督がそのままで待てと言った。
「最後のシーンもうちょっとだけ背中丸めて罪悪感とか全部背中で表現してほしいから、この後引きで撮る時もう少し激しめに」
激しめに。
その後に続くのが“泣き叫んでくれ”って言葉なのは充分通じた。
「はい、わかりました」
カメラが遠ざかり、コテージの真ん中で弟役の俳優と俺が泣いた。
...…ほんと言うと、少しだけれんちゃんを思い出した。
それを考えたら、泣ける気がして。
「っ...…っふ、うぅ……ああぁ!!」
俺は背中をぎゅっと丸め少し大袈裟に肩を揺らす。
床に手をつき床を叩く。
「OK、カット!終了!」
監督はそう言い立ち上がった。
今のシーンで俺は全ての撮影が終わった。
「如月くん今のよかったよ。
本当に大事な人だって伝わってきた」
「あ、ありがとうございます!」
とびっきりの営業スマイルで俺は監督に媚を売る。
そりゃそうだ、れんちゃんのことを考えた。
もう会えない人。
それは亡くなった人と一緒。
あちこちからクランクアップの拍手が聞こえてくる。
「如月色葉さん、室伏智さん
クランクアップでーす!お疲れ様でしたー!」
スタッフさんから花束を貰い笑顔で握手する。
周りの人とも握手をして隣にいた弟役、室伏くんとはハグをする。
「ありがとうございます!お疲れ様でした!」
俺は頭を下げる。
例のごとく、室伏くんから話が始まり俺にも番が回ってくる。
そして監督。
長い長い撮影期間は、終わりを迎えたのだった。
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