恋の戸惑い

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恋の戸惑い

緊張したぁ…… 私は今もなお激しく動き続ける心臓に軽く手をかざした。 どこかで見たことある顔だとは思った。 でもどうせ入院患者か先生かどちらかで、まさかテレビに出ている人気アイドルだなんて思ってもいなかった。 普通の人と喋るのだって得意ではないのに、いきなり芸能人なんて、ハードルが高すぎる。 私は遊んでいる子供たちをベンチで見守りながら、火照った顔と興奮を冷ましていた。 あの人、確か…… 「如月……何さんだっけ……」 名前は思い出せないけれど、考えれば確かに整った顔立ちをしていた。 緊張して、あまり目は合わせられなかった。 でも目が大きくて、鼻筋がスッと通っていて。 人気なんだろうな…… どちらにしろ、ずっと自宅と病院と学校を行き来していた私には一生縁のないような人だ。 アイドルでも煙草を吸うんだなぁ…… 見てはいけない部分を見てしまった気がして、少しドキドキした背徳感を覚える。 でも…… 思い出して少し笑みを零す。 見る度にコロコロ表情が変わって犬みたいだと、心の中では思っていた。 だって、笑顔で振り向いたと思えば真顔になるし、目をキラキラさせたと思ったら一人で落ち込みだすし。 私が出会ったことのないタイプの人だった。 「芦村さん」 その時、どこからか声が聞こえ顔を上げる。 向こうのドアから看護師さんが顔を出す。 「優さんがお見えですよ」 「わかりました、ありがとうございます」 優くん、今日も来てくれたんだ… 私はベンチから離れ、数人の子供たちと共に屋上を後にした。
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