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病室に戻ると椅子に座る男の人の姿。
開いていた窓から静かに風が吹き、その人の髪を揺らした。
そんな後ろ姿に声をかける。
「優くん?」
「あ、姉ちゃん。調子はどう?」
真っ直ぐに私を見て心配してくれる私の弟。
ついていたテレビを消し、器用に椅子をくるっと回しこちらを向いた。
少し長めの髪には、ひょこんと可愛らしく癖がついている。
「ん、大丈夫だよ。さっきも屋上に行ってきたの」
「そっか。無理しないでね」
「わかってる」
言いながら、私は羽織っていたカーディガンを着直しベッドに腰掛けた。
「今回は少しだけの短期入院だから。よっぽどの事がない限り、明日に退院できるしね」
「でも……」
優くんはそう言って立ち上がる。
私は少し呆れてから肩に手を置き座らせる。
「優くんは心配しすぎなんだよ。
お姉ちゃんもう21だよ?」
「そうだけど……」
納得いかないような顔をして口を尖らせる。
彼だってまだ19歳だって言うのに。
それも可愛い所ではあるけど、少し心配しすぎなのも気になってしまう。
彼女くらいいないのだろうか。
それを聞き出せないのは性格上、致し方ないことだ。
拗ね気味の弟の機嫌をどうやって直そうかと、私は考えふとさっきの出来事を思い出した。
「そういえばさっきね、屋上にアイドルの如月なんとかって人がいてさ――」
その言葉を聞いた優くんはゆっくり顔を上げた。
「え、如月色葉……?」
「あ、そうそう、その人!私知らずに話しかけちゃってさ――」
話してる最中、優くんは割り込んで大声を上げる。
「話したの!?」
「うん、そうだけど……何?優くんあの人好きだったの?」
「好きじゃないよっ!あの人女遊び激しいらしいし……大丈夫?姉ちゃん、何もされてない?」
さっきとは別人のような形相で私に質問を投げかける優くん。
その目からは真剣なのが伝わってくる。
如月さんが、悪い人……?
私は色葉が煙草を吸っていたことを思い出した。
確かにちょっと素行は悪いけど、でも、悪い人には見えなかった。
「大丈夫だよ……」
私は勢いに押されそう答える。
けど心の内はもやもやと霧がかったままだった。
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