家族

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 あれは、僕が小学校4年生くらいの時だった。  偶々、休みの日が重なった母さんが授業参観に来てくれた。  いつもは公務員の仕事で忙しく、仕事が被ると平日に仕事を抜けられないため、代わりに父さんが見に来てくれていたのだ。だから、母さんの姿を見つけた時はすごく嬉しかった。  小学生特有の会話というのか、教室中が家族の話で持ちきりだった。  __私はお母さんが来たの。僕のところは二人とも来てくれたよ。誰々ちゃんは?__ 「なあ、陽斗のとこはどうだった? 見たことない人がいたから陽斗のお父さんじゃないかって皆で話してたんだよ」  当然、僕も聞かれる立場だった。しかも、皆は母さんを見たことがないから、初めて見かける人に興味津々という様子だ。  父さんはぎりぎりに来て、授業が終わった途端に教室を出て車に戻ってしまうから、誰も見たことがない。  友達の間では謎の人ということになっているらしい。 「違うよ。それ、お母さん。珍しくお休みの日だからって見に来てくれたんだ」  その時の僕は父さんは父さんとして、母さんは母さんとして当たり前のことだと認識していたため、ただ、母さんが来てくれたことが嬉しくて弾んだ声で答えた。 「は? だってさっきの男の人だろ。何でそれがお母さんになるの?」 「え? 何でって言われても、お父さんはお父さんだし、お母さんはお母さんだよ?」  一瞬で、話を聞いていた皆が意味不明だという顔をする。僕自信もなぜそんな顔をされるのか分からなかった。 「陽斗君、変なの! 普通はお父さんが男の人で、お母さんが女の人なんだよ」  ませた女子がそんなことを言っていた気がする。すると、皆が口々に僕たちはおかしい、変だ、と言い始めた。  何がなんだか分からないまま皆から責められて、悔しい気持ちでいっぱいになった。 「変じゃ……っないもん」  きゅっ、と唇を引き結んで、ひたすらに帰宅の時間を待った。悔しくて、苦しくて、悲しくて、感情がごちゃごちゃになって何も分からなかった。
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