フィリップの手

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ドラマの主題歌がヒットして、各地のラジオ局を回る仕事ができた。アルバムも買ってもらおうという狙いだ。 もちろん一伽が住む街のラジオ局にも行くことになっていた。 「安藤さん、翌日オフ取れないかな」 「えー?厳しいですよそれ」 「一日だけでいいんだ。またあのホテルに泊まりたくて」 「もう、仕方ないなー」 マネージャーに無理を言って僕はまたあのホテルに予約を入れた。 一伽はその日職場にいるだろうか。 僕は、彼女に会わなくなって以来初めて、一伽の電話番号をタップした。 仕事なら出れないだろうけど、留守電だったらメッセージを残そう。 十回以上コールして出なかったら諦めてまた掛けようと考えた時だった。 八回コールした後に、恐る恐る、といった様子で一伽は電話に出た。おそらく彼女は僕の携帯番号をアドレス帳に登録していないようだった。 「……もしもし?」 「もしもし。わかるかな、爽だよ、見城爽」 「あ……」 電話の向こうで一伽が絶句している。 「切らないで! 今大丈夫なら話を聞いてくれないか」 「……何の御用でしょうか」 「一月十日にそっちに仕事で行くんだ。夜はまたあのホテルに泊まる。いつでもいいから話ができないかな」 「……困ります」 「もう誰か決まった人がいるの?」 「いいえ、そういうことじゃなくて……」 「僕のアルバムは聴いてくれた?」 「ええ……」 「じゃあ、わかってよ。僕の気持ちは変わらない」 「なら、どうして、」 涙声で一伽は言った後、言葉を詰まらせた。 「……フィリップ・ヤンにも言ったんだ。一伽は僕が支えるからって。それが言いたくてレコーディングに呼んだ」 「仕事で関わったんでしょ⁉  何でそんなこと言うの……!」 泣きだした一伽の声は震えていた。 「一伽、会って話そう。その日や次の日は仕事?」 「十一日は、休み……」 「わかった。朝十時にあの山の散歩道に来て。必ずだよ」 一伽は行くとも行かないとも言わない。 「信じてよ一伽、待ってる」 「……爽さん……」 「一伽、好きだ。……おやすみ」 電話の向こうで泣いている一伽の涙を拭いてあげることもできないのが悔しい。 でももうこんなのは終わりにしよう。 僕はその時に、ある決心をしていた。
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