プロローグ

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プロローグ

 通勤通学ラッシュの駅は、前を見ているようで見ていない人々が行きかっている。  彼も人の流れに乗って、ようやく慣れてきたスーツでホームに向かう階段を上っていた。 「あっ」  その声は、雑踏をかき分けて彼の耳に届いた。  女性と少女のあわいくらいの、澄んだ声。  その声とともに、目の前の雑踏がパッと開けた。 (――……はっ?)  まずは影だった。  影が降ってくる、それが直感だった。  少女だ。  華奢な、ワンピース姿の少女がこちらに背を向けて落ちてくる。  細い体のラインが、ワンピースの中にうっすらと透けている。  咄嗟に彼は腕を広げた。  どすん、と体に衝撃を受け、なんとか踏みとどまる。  広げた腕の中に、小柄な少女がおさまっていた。  大学生くらいの年頃に見えた。  まだ成人はしていないだろう。  どことなく頬のラインがあどけない。 「あっぶね……」  後ろ向きに飛び込んできていた彼女の肩を、そっと押し返す。 「大丈夫……?」  彼が恐る恐る声をかけると、少女はまだ状況を飲み込めていないのか、どこか呆然としている。 「怪我は?」 「えっ」  目の前にある彼の顔を見て、そして、彼女は振り向いた。  そこは、駅のコンコースに向かう階段の中ほどで、まだ十数段、階段は残っている。  さぁっと彼女の顔の血の気が引いていく。
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