プロローグ

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 細いが、力強い走りで、その小さな体は人ごみに消える。 (……あんなヒールの靴履いてたら、階段も落ちるな)  足元は華奢なピンヒールだ。折ろうと思えば簡単に折れそうな。 「そろそろ、俺も行くか」  また歩き出そうとした時、彼はスーツのボタンに絡まった紺色の紐リボンに気が付いた。 「……リボン?」  古びたベルベットのリボン。 「あの子のかな……」  彼は、リボンを手に階段を駆け上がった。  コンコースの人の群れを進み、改札を通り抜ける。  けれど、彼女の背中は人ごみに紛れて、もう見えなかった。 「いないか……」  スーツで全速力で走ったせいで、息が上がる。  彼は手に残ったリボンをじっと見つめた。  ある、春の朝のことである。
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