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本当に時間がないのだろう、隼は流しのタクシーを捕まえて、仕事に向かった。
隼を乗せたタクシーが完全に見えなくなってから、すっと真白の表情が消えた。
「──……あの人、なんか変な人だね」
「変……?」
「深い意味はないけど、なんていうか……」
真白は隼の去った方向を眺めながら、微かに首を傾げた。
「視られてるって感じたの。『見』てるんじゃなくて、『視』られてる。分かるかな?」
「お前に気があるんじゃないの」
心底馬鹿にした様子で、真白が隼を振り向いた。
「あんた何を見てたの?」
「ナンパされてただろ」
「あれは鷹也をからかったんでしょ」
真白は肩を竦める。
からかわれた? そう言われも鷹也にはピンと来なかった。
「──本当、あの人、ただの先輩なの? こんな風に感じることなんて、あたし、滅多にないんだけど」
「……一目惚れ?」
「それ、本気で言ってる?」
今度は睨み付けられた。
「そういう意味じゃなくて、能力者なんじゃないのってこと」
「それは違う」
きっぱりと答えることが出来る質問だった。
違う。
彼は『能力者』じゃない。何も見えない。
能力があれば見えるはずだ。真白はいつ見ても白い光に包まれている。
だが、隼には何の色も光も見えない。
「ふうん……ケース・ゼロがそういうなら、そうなんだろうね」
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