4人が本棚に入れています
本棚に追加
05 善悪の基準
「あれ? 鷹也くんどうしたの?」
研究所のオフィスに向かうと、佐々は驚いた様子だった。
事務処理をしている手を止めて、首を傾げている。
「お疲れ様です」
「今日来る予定だったっけ?」
「ちょっと気になることがあって」
「そっか。コーヒー淹れるね」
「ありがとうございます」
宛がわれたオフィススペースは管理官個人で区切られている。
書類ラック以外は、鷹也と事務官である佐々それぞれのデスクと、応接セットがあるだけだ。真白はデスクは持っていない。
佐々がコーヒーの用意をする音を聞きながら、早速、鷹也はデスクにある端末を起動した。
端末では研究所の機密データベース『超感覚能力者個人台帳』へのアクセスが可能だ。
鷹也はデータベースに、彼女の名前を打ち込んだ。
(……伊藤瞳……)
検索すると簡単にその情報が出てきた。
県内で登録されている「伊藤瞳」は一人きりだったからだ。
伊藤瞳、[PK特化型]能力、二十八歳、職業医療事務。
「……病院勤務っていうのは、嘘ではないってことか」
能力者の個人台帳には、能力者の名前、生年月日から成育歴、家族構成、発見の経緯、認定調査の結果などがまとめられている。
もしも過去に能力関係でトラブルがあれば記載があるはずだが、伊藤瞳には何も特記事項はない。
ただ末尾に一言、『十六歳で能力消失と認められる』と書かれた以降追跡調査からは外れている様子だ。
(対象にされてない……それに、定期検診時の能力テストか……検出下限値が三回連続……か)
能力テストは個人個人に行われ、能力を失うと追跡から外れることになる。
最初のコメントを投稿しよう!