05 善悪の基準

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 ニーナ・クラギーナはソビエト時代の有名なサイキックで、彼女はカエルの心臓を止めたという記録が残っている。 「生体関与のPKなんて県内にいたのねぇ。今日も真白ちゃんの怪我を治したのなら、能力はまだ健在ってこと、よね?」 「……そう、なると思います」 「鷹也くん、共感覚があったってこと、だよね?」  鷹也は黙って頷いた。  人の良さそうな笑顔、少しだけ明るい栗色の髪、白いシャツに黒いカーディガンを着ていたっけ。  笑顔と同じくらい声が柔らかくて、安心感を与えることの出来る人物だった。 「しばらく様子を見てみます、偶発的なものか、意図的なものか。ケース化は待ってください、お願いします」 「そうね……分かった」  真珠色の光。  淡く真白に降り注いだ光。  彼女はどうして能力消失をしたとされているのか。  頬杖をついて鷹也は、画面に表示された彼女の写真を見つめていた。  午後から会社に出社すると、鷹也には大量の書類のコピーが待っていた。  この会社は古くから管理官が潜入するルートのひとつになっている。  警官の道を選ばなかった管理官はこういうカムフラージュ会社に潜入している。  鷹也は割合すんなりと、外回りという名の巡回に出かけることのできる仕組みに慣れた。  基本的には午前中か午後のどちらかを会社での事務仕事に従事している。  大型のコピー機の前で、三十枚のレジュメを百部コピーする、という単純なようで、なかなか手間のかかる仕事を黙々とこなしていく。  本来はステップラー機能が付いたコピー機があるのだが、それは先客がいたので、印刷のさきは手作業が待っている。
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