05 善悪の基準

5/9
前へ
/134ページ
次へ
 コピー機から吐き出される紙をまとめていると、背後からどん、とタックルされた。  驚いて振り向くと、人好きのする笑顔で隼がこちらを見上げていた。 「千代田じゃん」 「鈴木さん……、痛いです」 「あったりまえだろ。痛くしてんだから」 「……はぁ……。内勤ですか?」 「うんにゃ。午前から外回りだった。これからまた外~」 「お疲れさまです」  実際に営業の外回りを経験しているわけではない鷹也にとって、頭が下がる。  営業がいかに激務かは、見ていて分かる。  管理官としての職務があるとはいえ、みんなとは違う仕事をしていることが申し訳なくなることもある。  隼は特にそうだ。  出張も多いし、大抵社にはいない。  それでも、「疲れた」とは一度も言ったところを見たことがないので、密かに尊敬していた。  いつ何時も明るく、後輩や先輩たちにも愛されている。 「なぁ、千代田」 「なんですか」 「あの子、真白ちゃん、紹介してくれない?」 「──え?」  予想外の提案に、鷹也の思考が一度停止した。 「真白を? 本気ですか? 学生ですよ」 「え? でも高校生とか中学生じゃないんだろ?」 「それは……そうですけど、まだ子供です」  真顔で聞き返す鷹也を見て、隼は訝しげに眉を寄せた。 「あったま固いなぁ、お前」 「……そうですかね」  頭が固いのだろうか。  真白を隼に紹介する……? そう考えると、胸の底がもやもやとした。  大学に入学したばかりだ、頑固で、誰かを頼ろうとしない。  そんな子を、誰かに紹介する事なんて、自分には出来るだろうか……それに……。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加