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隼が外回りから戻る前に、鷹也は会社を後にした。
避けた訳ではなかったのだが、顔を合わせなくてホッとしたことは事実だった。
職場の先輩である隼があれだけ強く言っていることを無碍に出来ないが、真白は恐らく「いやだ」とか「なんであたしが」と突っぱねることは目に見えている。
あくまでも、真白は補佐官だ。
友人でもないのに、そこまでさせてしまっていいのだろうか。
考えながら、夜に差し掛かった街を歩いていくと、不意に、何かを感じて足を止めた。
「──……伊藤瞳」
顔をはっきりと覚えていた訳ではなかったけれど、彼女の色を覚えていた。
一度認識したからか、少しだけ漏れた光を鷹也は目の端に捕らえることが出来た。
相変わらずムラのある真珠色の光に体を微かに包まれた伊藤瞳が、とことこと歩いていく。
歩いている姿を見る限り、目的を持って歩いているようには見えなかった。
斜め掛けにしたバッグのひもを握って、ややうつむき加減に歩く仕草は、どことなく幼い。
鷹也は咄嗟にその背中を追いかけた。
案の定、彼女はふらふらと歩きまわっているようだった。
年齢も年齢だから補導されるようなことはないが、動きは家出した子どもそのもので、何かを探しているかのようにも見える。
その時、アーケードの先で悲鳴が上がった。
伊藤瞳を包んでいた色がざわりと動いて、彼女は騒ぎに真っ直ぐと近寄っていく。
慌てて人垣を掻きわけて追いかける。
鷹也が追いつく前に、彼女は喧騒の中心に潜り込んで行った。
(―――……何をするつもりだ?)
どうやら酔った学生同士喧嘩のようだ。
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