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ひょいと背伸びをすると、見物人が遠巻きにする向こうでは女の子がしゃがんで口を覆って泣いていて、二人の男が取っ組み合いのけんかになっていた。
見たところ、女の子の取り合いだ。
なんとまぁ、青春だな、と苦笑が漏れる。
「この野郎」とか「お前が先に手を出したんだろ」と言いながら殴り合っている。
鷹也はのんきに傍観を決め込んでいたのだが、伊藤瞳は人垣から突然姿を現すと、女の子の傍にしゃがんでティッシュを差し出していた。
(……こんな時に怪我の心配か?)
訝しく思って見ていると、そうではなかった。
彼女の色がぐわんぐわんと動いて、そのティッシュに移動していく。
ティッシュまで真珠色の薄い層に包まれていった。
女の子の膝は両方とも擦り剥けて、血が出ていた。
伊藤瞳がちょんちょんと人差し指で指し示すと、女の子は真っ赤になってそのティッシュを受け取って膝を拭っていた。
淡い光が女の子の膝を包む。
(やっぱり能力は消えてないんだ……)
こんなにも堂々と能力を使っているなんて、と愕然とする。
真白の時も偶然ではない、やはり彼女はきちんと分かってやっているのだ。
ティッシュを渡して満足したのか、それ以上は長居しようとはしなかった。
立ち上がって立ち去ろうとする彼女の背中に怒号が浴びせられる。
完全に酔った男の片方が、その行動を見咎めたのだ。
「おい! お前! 俺の女に何触ってんだよ!」
その一言と共に、もう一方と突き飛ばして伊藤瞳に向かって行く。
流石に、伊藤瞳も驚いたのか、ぎょっとして振り返って硬直していた。
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