05 善悪の基準

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 大股で駆けよってくる男を怯えた様子でただ見つめている。  鷹也は舌打ちして、人垣から飛び出した。  丁度男の真横に出たので、そのまま蹴りつける。  思いもよらない方向からの攻撃に男は勢いよく転んだ。 「けんかはやめなさい!」  警官の声が響いた。誰かが交番に駆け込んだのだろう。  男たちも我に返ったように、そちらを振り向く。 「こっちに」  鷹也はまだ凍り付いていた伊藤瞳の腕を掴むと、無理矢理声の方向とは真逆に走り出した。  繁華街を駆け抜けて、公園に駆け込む。  そこで手を離すと、お互い完全に息が上がっていた。  息を整える長い間の後に、伊藤瞳が鷹也を見た。  眼差しには戸惑いが透けて見えた。 「──……あの……」 「すみません、いきなり。その、警察が来たみたいだったから」 「いえ……」  彼女は小さく首を振った。 「ありがとうございます」  ふわりと笑った彼女に、鷹也は内心で安堵した。  彼女はどうやら、鷹也を覚えていないようだった。  それなら、わざわざ思い出させる必要はないだろう。  経過を観察するだけなら、気付かれていない方が都合がいい。 「あの女の子の怪我、よく気が付きましたね」 「え、あ、ああ」  公園に他に人気はなかった。  鷹也よりも明らかに息の上がっている伊藤瞳は、そのまま地面に座り込んだ。 「腕っぷしとかは全くなんですけど、怪我してる人とか見てると、ほっとけなくて」 「いいですけど、あんまり無理しちゃだめですよ」 「すみません」  ──この人はいたるとことで能力を使う、自分の職務として許してはならない存在だ。力を有効利用しているとしても……。  人の好い、見ていてほっとするような穏やかな笑顔に、鷹也は意識してそう心の中で繰り返していた。
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