4人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「大丈夫大丈夫。その内スーツが一番楽ってなるよ」
佐々に先導されて歩く廊下は人気がなく、がらんとしている。
ここは無臭だ。
建物からなんの匂いもしないというものは、なんとなく恐ろしく、そして不気味に感じてならない。
ここに出入りするようになって何年も経ったけれど、いつも首の後ろをそっと冷たい手で撫でられたように、悪寒がする。
佐々はひとつの部屋の前で立ち止まる。
また、ここにも何の表示はされていない。
ドアの横、ロックを解除するためのセンサーがあるだけだ。
ただ、この部屋は流石に覚えている。
所長室だ。
何度か呼び出されたことがある。
「さ、九尾さんが待ってるよ」
「はい」
その名前に鷹也は、少し緊張した。
息を止めて、姿勢を正す。
鷹也の微かに強張った顔を見て、佐々はふふっと微笑んだ。
「じゃあ、準備はいい?」
「お願いします」
佐々はまた、パスケースをかざしてドアを開錠した。
ガチャンと、廊下に音が響く。
「九尾所長。千代田鷹也くんをお連れしました」
「どうぞ~」
ハスキーだが、軽い調子の声が返って来た。
最初のコメントを投稿しよう!