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陽光が不意に表情ごと声を和らげた。
「だからといって到底、納得することは出来ないけどな」
そこで再び、柊へと瓶の口を傾ける。
「おまえはよく頑張ってると思うよ」
「陽光――」
酒を注ぐ陽光の手元に宿るねぎらいといたわりとを、柊は確かに感じ取った。
「結局、俺の手助けなんて何一つ必要としなかったな」
我知らずの内に陽光の声には、顔には苦笑がにじんだ。
柊は陽光の酌を受けることはうけたが、酒を飲み干さなかった。
座卓の上へと静かに盃を置く。
「そんなことはない。手助けなら必要としただろう?今夜」
柊は音もなく立ち上がると窓際へと歩いていった。
素足だったが、陽光には不思議と寒ざむしく見えなかった。
障子が全く開け放たれる。
窓はまるで一面に瑠璃色の鏡をはめ込んだ様になっていた。
宝石の瑠璃には所どころに金が散らされているのに対して、夜空には一面に銀色の星が散りばめられている。
それを背中へと従えて柊は陽光を顧みる。
「わざわざ朔、――月がない夜を選んでくれたんだな」
その夜にお忍びで下りてきた月が人の姿を借りたら、柊の貌のようになるだろうと、陽光はぼんやりと思う。
自らが白く淡く輝いている――。
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