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 地上にある月の引力に惹きつけられるかのように陽光が窓辺へと、柊の左隣へと歩み寄った。 「その方が断然映えるからな。曇ったら元も子もないんだが」  今夜は一昨日まで降り続いていた雪も止み、雲もすっかりと風に流されてしまっていた。 凍った雨に洗われた夜空は冬の寒さにも晒され、いつにもまして澄み切っている。 「でも晴れた。陽光は昔から晴れ男だから」  その夜空をも(しの)ぐ清すがしさで柊が言い切る。 自分のことのように、――いや自分のこと以上にうれしそうな柊の笑顔だった。 地上での月がさらに輝きを増したかのように陽光には見えた。  その眩しさについ釣られるように陽光も又、笑って返す。 「『名は体を表す』って言うだろう?」 事実、自分の名前が『陽の光の如くあるように』という意味を込めて付けられたことを陽光は知っていた。 ちなみに名付けた父親の名前は照夫(てるお)といい、陽光の二人の兄はそれぞれ(あさひ)日向(ひなた)といった。  柊がふと、笑いに苦さを含ませた。 「それだとおれは棘とげしくて近付き難い奴だな」 「・・・・・・」  陽光のけして大きくはない目が瞬間、細められる。 そうすると普段は人懐っこい顔が途端に剣吞になるのを柊は知っていた。
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