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陽光が柊の手首を、体を放す。
柊の視線が窓へと吸い寄せられていることに気が付いたからだ。
柊は冷たさをものともせずにガラスに手のひらを当てた。
子供の頃は『行儀が悪い!』と𠮟られたものだった。
左耳のすぐ上から陽光の声が降ってくる。
「まさか親父が許してくれるとは思わなかった。おまえが予め何か言っておいてくれてたのか?」
「――息子さんをおれに下さいって言った」
柊が陽光にではなく窓ガラスに向かって話したので、たちまち白く曇った。
「えぇっ⁉」
陽光の絶句でやっと、柊は顔を陽光へと向ける。
「照夫おじさんには『陽光の力が必要なんです。息子さんの時間をひと時、おれに分けてください』と言った。――噓は吐いていないだろう?」
「全く――、驚かすなよ」
素っ気ない陽光の口振りは、怒っているというよりも残念がっているように柊には聞こえた。
けしてうぬぼれなどではないと、確かに思う。
まるでその証しのように、陽光の指が柊の持ち上がった口の端のくぼみへと触れた。
ほんのりと温かい指先だった・・・・・・
「おじさんもうれしそうだったよ。『ウチの末っ子がお役に立てるのならば是非とも喜んで』って言って二つ返事で貸してくれた」
「随分と大安売りされたものだな」
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