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 昨年、年明け早そうに『銀柊荘』の四代目を継いだ柊から陽光に依頼があったのは、夏も終わる頃だった。 当初、陽光は自分の仕事の先行きを心配しての『発注』かと疑った。 それは全くの誤解、――見当違いだった。  柊は、『銀柊荘』を訪れることが叶わなくなった顧客のために花火を打ち上げたいのだと告げてきた。 太陽の光の環を意味する流行(はや)り病に対抗して光の花の輪、つまり花火を夜空へと咲かせたいのだと語った。  さらにそれをオンラインで配信する予定だと陽光に計画を打ち明けてきた――。  今回の計画のの発案者が続ける。 「もちろんホームページには日時を掲載した。その上で書面でもお知らせをした。『ご希望の場合は各種メディア媒体での送付を承ります』って一筆書き添えて」 「至れり尽くせりだな」  嫌味などではなかった。 陽光は本気で感心する。 これが、『室礼』と対を成す『銀柊荘』の『もてなし』なのだろう。 「それくらいしないとな。――言っただろう?出来ることが限られているって」
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