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玄関前の車寄せで、つまりはわざわざ戸外で佇む人影があった。
その初代のひ孫で、今はこの旅館の実質的な主である岸間柊だった。
旅館内では『若旦那』と呼ばれているのを父親伝手で知った時、陽光は思わず声に出して笑ってしまった。
いつまでたっても『大切な坊ちゃん』扱いをされ、又それに甘んじているあたりが何ともらしいと思った。
柊は和服姿だった。
黄色味が強い赤の着物に、黒ずんではいたがやはり赤い羽織を着ていた。
陽光が実際に見るのはこれが初めてだったが、多分これが柊の普段の仕事着なのだろう。
自分が通年、耐火性のコートを着込んでいるのと同じだと陽光は考える。
それにしてもいくら正月とはいえ、赤い着物とは何ともおめでたい限りだ!
全く――、いつまで若いつもりなんだか。
自分と同じで不惑も近いというのに・・・・・・
頭の中ではつらつらと考えていても、陽光の目は一向に柊を離そうとはしない。
柊の着物と羽織りとは、襲ね色目では『椿』と呼ばれる冬の組み合わせだった。
もしも、陽光が見知っていたのならば「柊なのに椿を着るのか?」と、十中八九からかっていたことだろう。
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