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 しかし、陽光はただ黙って柊の姿を見つめるだけだった。 その姿はまるで、周囲から全く切り離されてしまったかのようにぼんやりと浮かび上がっている。  夜の闇の(もと)、柊そのものが光を放っていた。 陽光はふと、常夜灯を思い浮かべた。 どんなに暗く長い夜の間でもけして消えずに、ずっと帰りを待ち続けてくれている一点の灯り――。  その、生きる常夜灯が口を開いた。 「おかえり。陽光(あきひろ)」    それは老舗温泉旅館の四代目が来客へと述べる挨拶ではなかった。    陽光がここに今この瞬間から、柊は『銀柊荘』の若旦那ではなくなった。 「ただいま。(ひいらぎ)」  陽光も又、父親同士が親友で生まれた時からの幼馴染みとして柊に応じた。
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