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 陽光は初めて足を踏み入れる離れは、入ってすぐが広間になっていた。 八畳ほどの和室だった。 正面は全て窓の造りとなっている。 夜の今はピタリと閉められた障子のその向こう、眼下に温泉街の灯りが瞬いているはずだった。  離れはここを(メイン)に寝室が二部屋、布団敷きの和室とベッドの洋室とがある。 風呂は内と露天とがあり、それぞれにトイレが備え付けられている。 極め付けには茶室までもがあった。  風呂上がりの陽光へと合わせたのか、柊は既に館内着の浴衣に着替えていた。 白地に濃い緑も鮮やかな模様は当たり前のように柊の葉だった。 「柊が柊を着ている」と、今さらにはやし立てるまでもなかった。 以前、陽光は「冬に生まれた待望の子供だから『柊』と名付けられた」と、その張本人から聞き及んでいた。  柊が陽光に四合瓶を掲げて見せた。 何のラベルも貼られていない、のっぺらぼうの黒い瓶だった。 おそらくは昔から懇意にしている地元の蔵元の隠し酒(秘蔵品)だろうと、陽光は踏んだ。 「――本当に酒だけでよかったのか?」
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