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憮然として言う柊の顔がほのかに赤いのは、まだ一滴も飲んでいない酒のせいでは当然有り得ない。
客商売の家に生まれたというのに、腹芸が下手なのは相変わらずのように陽光には思える。
「お疲れ様。そして、ありがとう」
柊が一礼をし、労いの言葉を告げてくる。
盃を一息で干すことで、陽光は柊へと応じた。
オンラインショップの件といい、さすがの頭の回転の速さだった。
『名は体を表す』という言葉を陽光は思い出す。
前に調べて知った柊の花言葉は『用心深い』と『先見の明』と、――そして『保護』だった。
どの言葉も、あの特徴的な葉由来なのだろう。
咲く花はあんなにも可憐で香り高いというのに。
そんなところも柊はそっくりそのままだと、陽光は独り秘かに思う。
しかし、口では全く違うことを柊へと話した。
「よく桂一おじさんがネットショップを許してくれたな」
「その辺りは鷹揚だった。正直、どうでもよかったんだと思う。初代の遺言が守られさえすれば」
柊が言い捨てながらも、自分が盃へとおかわりを注いでくるのに陽光は感心する。
柊に見守られつつ盃を干し、思い出して言った。
「初代の遺言って確か、『素性が分からない客は泊めるな』だったっけ?」
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