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 柊はうなずき、 「『氏素性が知れない客は客に非ず。真にもてなすに値せず』だそうだ」 と、陽光の言葉を正しく言い直した。  柊が岸間の家に生まれた時からそのを、――ようにと育てられてきたのは陽光の想像にも難くない。 しかし、そこから先は四代続く老舗温泉旅館の若旦那とはまるで思えない粗雑、粗暴さだった。 「全く――、とんでもない時に表舞台へと引っ張り出されたもんだ!」 柊は続けざまに手酌をする。 当然、こちらは片手でだった。 「親父のヤツ、とっとと楽隠居を決め込みやがって!」  柊が言い放った勢いそのままに注いだ酒は、辛うじてこぼれずに済んだ。 盃を満たした中身を一息で飲み干す。 「お、おいっ⁉」  見るにみ兼ねた陽光は柊の手から四合瓶をひったくった。 柊の見た目は老舗旅館の跡取り息子(ぼんぼん)を画に描いたようだと、前まえから思っていた。 先ほど玄関口で自分を出迎えた姿などは、まさに若旦那だった。  色味を抑えているとはいえ、赤い着物をああも着こなせる四十手前の男を陽光は他に知らない。
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