大海に掲げるセイル

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大海に掲げるセイル

私が初めて大海へ向けてセイルを上げた時… 今から思えば経験も…何の保証も後ろ盾もない ただ若さに任せただけの世間知らずな自分と この船よりも随分と小さな船だけであった。 船は幾度となく嵐に揉まれて 命からがら港へ立ち寄り… そこで知り合った他の船乗り達と 仲間(ギルド)になって また大海へ挑む決意をした。 私は仲間と何度も海に挑んだ… 時には手痛い敗北を喫しても そこから学んだ経験と心有る歴戦の先駆者の 無愛想だが…優しいアドバイスが 掛け替えの無い自信を与えてくれた。 ある港で… 私は恋に落ちた。 時には身体を投げ打って 大海に挑み続けていた自分にも 守るべき物が出来た… やがて(せがれ)も産まれて… 私はこの港に身を置く事になった。 穏やかな空と海… 太陽と潮の香りの中で私は甲板に寝そべっている。 そして…自分がセイルに掲げた文字を見上げて 私は嬉しくなって笑った。 守るべき物が出来たということ… それは旅の終わりということなのだろうか…⁉︎ 私が自問自答していると、ある先駆者が… 『人は大海に挑み続けることが旅なのではなく 自分がどう生きるかを見つける旅をしているのさ』 と教えてくれた… 大海に挑み続ける道を選ばなかった私だが… 今では空や風の様子で船を操る経験(わざ)や 色々な事を教えてくれる仲間達が出来た。 今では倅も大きくなり… いつかは自分だけの船を持ち いつかの自分のように 大海へ向かってセイルを上げるだろう… そして私も自分が決めたこの場所で これからも旅を続ける。 この場所で生きていくという旅を… 穏やかな空と海… 太陽と潮の香りの中で私は甲板に寝そべっている。 そして…自分がセイルに掲げた文字を見上げて 私は…倅やこれから大海に挑む若者に 思うことをそっと呟く。 …今、世界は未曾有の嵐に見舞われて… その波は高く、経験を積んだものでも 乗り越えるのは困難である。 しかし、願わくば… 君達の若さの熱量と学んだ知恵で 高い波を乗り越えて… どうか君達だけの新大陸(フロンティア)を 見つけだして欲しい。 そして堂々と自分自身の生きた証を 自身の船のセイルに刻みつけて欲しい… そのまた次の世代の若者の乗り越えるべき 指標となるように…
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