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「あまり無理はしないでくださいね? 大介さん。休まずに描き続けちゃうクセありますから」
「ゔっ、気をつけるよ」
「ふふっ。完成が待ち遠しい……」
彼女の僕の作品を見つめる風貌は、とても美しく見えた。
「ユナ」
「ん? なんでしょうか?」
ユナをモデルに絵を描いてみたい。
だけど、ユナの名前を呼んでおいてうまく言葉が出ない。
ユナは不思議そうに僕を見つめている。
「あの、ユナ。僕の絵のモデルになってくれない、かな……」
情けない声で情けない感じでお願いしてしまった。
ユナの表情が一瞬固まり、すぐに優しい笑顔を浮かべ、
「はい。喜んで」
案外、すんなりと了承してくれた。
「ほ、ホント?」
「えぇ。もちろん」
ユナの絵が描けることに心臓が煩く鳴り、気分は高揚して、僕は大声で「よっしゃー!」と叫んでいた。
普段、叫ぶような性格ではないから、ノドが痛く感じた。
あれから、ユナに条件が言い渡された。
今描いている作品を完成させてから。という、至極真っ当な条件だった。
* * *
数ヶ月後、コンテストに出す作品が完成し、僕はユナに電話を入れようと携帯を取り出すと、大量の不在着信がかかっていた。
しかも、見知らぬ番号ばかり。
普段の僕ならそのまま放置するが、この日はヤケに胸騒ぎがして、不在着信に電話を入れた。
電話に出たのは、見知らぬ女性の声だった。
『あ、ようやく出たわ。この番号、鈴木大介さんの番号で合ってますか?』
「そうですが……。あのぉ、どちら様で?」
『牧野ユナの母親です』
「……ユナの母親?」
『大介さん。落ち着いて聞いてくれますか?』
聞きたくない。
『ユナは、今朝ーーー』
やめてくれ
聞きたくない!
『事故で亡くなりました……』
急な出来事に頭が追いつかなくて、それでも電話を切ろうともしないで、ただただ、機械的にユナの母親と名乗る女性の話を聞いていた。
簡潔に言うと、ユナは僕のアトリエに向かう道中に爆走して来た車に跳ねられて、そのまま救急搬送された数分後に亡くなったと、聞かされた。
爆走していた車は、酔っ払い男だったという。
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