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『大介さん。ユナと仲良くしてくれてありがとうございました。あの子、いつも楽しそうに貴方のお話をしてくれたから……。ぐすっ、ありがとう』
「……あの、ユナと約束していたことがありました」
『なんでしょうか?』
僕は、完成した作品を見せる約束とモデルになってくれる話を母親に話した。
完成した作品は写真に撮り後日配送する約束をし、モデルの方は彼女の写真を送ってもらう約束を取り付けた。
彼女の絵を描くために。
『わかりました。ユナもきっと喜ぶわ』
「いいえ。僕にはこれしかできませんから……。それでは、失礼します」
電話を切った後、僕は泣き崩れた。
ユナに最初に出会ったのは、高校時代まで遡る。高校の美術大会で他校生だったユナに出会い、彼女の描く風景画に魅了されたのが始まりだった。
ユナも僕と同じ心情で、僕の絵を気に入ってくれた。それから、彼女と仲良くなり、あとから聞いた話だが僕の方が年上だった。
そして、大人になってからも彼女と交流し、いつのまにか居なくてはいけない存在になっていたのだ。
散々泣いた後、僕は新しいキャンバスを買いに出かけた。
彼女専用のキャンバスを……。
* * *
僕は、ユナの母親から送られてきた、ユナの大量の写真の中から一枚の写真を選び、キャンバスに線を描いていく。
「ユナ……。綺麗に描いてあげるから」
ユナの絵を時間をかけて描いた。彼女の美しい風貌とそれに似合う景色を厳選しながら、彼女を思いながら丁寧に描いていった。
ちなみに、コンテストの作品は落選していた。ユナの母親に送った僕の作品写真は、ユナの棺の中に入る予定だ。
ユナに認められる作品ならそれだけで、価値のあるものだからいい。
僕はユナと過ごしてきた時間を思い出しながら、仕上げに取りかかった。
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