キャンバス

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キャンバス

売れない画家の僕を支えてくれた、僕の大好きな人は、僕の(えが)く絵を気に入ってくれていた。 僕の描く絵は、ほとんどが抽象的で見る人を選ぶような絵ばかり描いていた。 万人受けしない作品だって分かっている。 それでも、この頃の僕は批判されるような絵を進んで描き続けていた。 ただひとりを除いてーーー * * * 僕の自宅兼アトリエで、今日もキャンバスに絵を描いていく。今回の作品は地元で開催される小さな美術コンテストに出す作品だ。 小さなコンテストでも、何かのきっかけで売れっ子作家になれるチャンスかもしれないから、僕は毎回大小関係なしに片っ端から、作品を出品していた。 ちなみに、どの作品も見事に落選している。 それでも、僕の爪跡だけでも残したくて、何度も何度も作品を描いては出品を繰り返していた。 いつか夢が叶うと思いながら。 「少し休んだらどうですか? “センセ”」 僕のアトリエに入って来たのは、僕の大好きな人ーーーユナがコーヒーを淹れて持って来てくれた。 「ありがとう、ユナ」 「ふふっ。そんなに張り詰めないで、もっとリラックスして描いてください。怖い顔しながら描いたら、いい作品が台無しになっちゃいますよ?」 ユナの柔らかで優しい言葉にいつも救われる。僕自身気づいていない悪い癖やいい所を見つけては、いろいろとアドバイスをくれる。 そんな気遣いや優しさに、いつのまにかユナのことが好きになっていた。 未だに告白はしてないけど……。でも、今の関係も居心地いいからこのままでいいなんて思ってしまう。 ユナからコーヒーを受け取り、一口啜る。 ユナは僕が描いている途中の作品を覗き見する。 「うわぁ! 綺麗な絵ね……。素敵な絵」 ユナの感嘆混じりの感想に僕の頬が緩む。 「そうかな? 今回の作品は、静かな湖畔にひとりの少女が踊る風景をメインに描いているんだ。だけど、色合いはもう少し翳りを着ける予定だよ」 「ふふっ。完成が待ち遠しいわ。完成したから一番先に見せてくださいね?」 「あぁ、もちろんだよ。今度のは気合いが入っているから。頑張って描かないと!」
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