見世物小屋

1/2
前へ
/2ページ
次へ

見世物小屋

 「さぁ、今日も始まるよ!奇怪で愉快な仲間たち!その眼でとくとご覧あれ!」 主様のいつものセリフ。それに合わせて、まず最初にだるま男がだるまのように転がって登場する。  ゴロゴロゴロゴロ。床板の上をわざと音を立てて転がっている。 「こいつはだるま男!こいつは昔、病気で手と足を切っちまって胴体だけになったんだ。なんとも可哀想だろう。」 主様はそう言って悪い顔をして笑う。  「次は蛇女!見ての通り、顔に鱗、舌は二股でなんとも奇妙だ。しかも、2ヶ月に一回脱皮までしやがるってんだ。こいつの皮が欲しけりゃ、後で買いな!」  蛇姉さんは妖美な服を着て、二股に分かれた長い舌を観客たちに見せる。  それを見て、歓声をあげる観客たちは、皆仮面を付けていた。見るからに富裕層で、身分がバレるといけないのだろう。  「さて、お次は結合双生児と呼ばれる、摩訶不思議な双子だ!なんと、身体は1つ、頭が2つってもんだから、驚きだよな。」  双子の漫才が始まる。息がピッタリの2人は、毎回、面白くて違うネタを用意してくれている。  「さぁ、会場が温まったところで、最後の見世物だ!これは本当に、格が違うぜ?なんと、こいつは!物心ついた頃からここに居るんだ!母体が日本より西にある、遠い遠いヨーロッパって異国で捕獲された時に、腹の中に居たんだよ。こいつの過去は悲しいもんでな。生まれて二年で、母親がなくなっちまって、海ってもんを見たことねぇらしいんだ。では、その目に焼き付けな!人魚だ!」 主様の声と共に台車によって運び込まれる。人魚だ!を合図で、水槽に掛かっている布を取られ、暗闇から一気に明るい世界へ変わる。  「あれが人魚か、日本の人魚とは違うな。」 そこかしこから、そんな声が響く。  「さぁ、それだけじゃないぜ?最後はこいつで締めよう!人魚によるショーだ!」 そのセリフを合図に、私は水槽から飛び出し、空中で一回転。他に用意されていた、広い水槽へ着水し、今日1番の歓声が上がる。  主様のセリフに合わせ、輪の泡を作ったり、水の中で踊ったり、いつものように芸を楽しんだ。 そう、私は母親が亡くなってから、母の代わりに見世物にされている、人魚だ。  小さい頃からずっとしていることなので、悲しくはない。慣れたというか、今は楽しんでいる。私は所詮、主様が居なければ生きていけないのだから。  「特に、驚くべきはこの事実!何が凄いかって?みんなもお気付きであろう。こいつだけ、れっきとした人間では無いのだ!そう、人外!!」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加