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見世物小屋
「さぁ、今日も始まるよ!奇怪で愉快な仲間たち!その眼でとくとご覧あれ!」
主様のいつものセリフ。それに合わせて、まず最初にだるま男がだるまのように転がって登場する。
ゴロゴロゴロゴロ。床板の上をわざと音を立てて転がっている。
「こいつはだるま男!こいつは昔、病気で手と足を切っちまって胴体だけになったんだ。なんとも可哀想だろう。」
主様はそう言って悪い顔をして笑う。
「次は蛇女!見ての通り、顔に鱗、舌は二股でなんとも奇妙だ。しかも、2ヶ月に一回脱皮までしやがるってんだ。こいつの皮が欲しけりゃ、後で買いな!」
蛇姉さんは妖美な服を着て、二股に分かれた長い舌を観客たちに見せる。
それを見て、歓声をあげる観客たちは、皆仮面を付けていた。見るからに富裕層で、身分がバレるといけないのだろう。
「さて、お次は結合双生児と呼ばれる、摩訶不思議な双子だ!なんと、身体は1つ、頭が2つってもんだから、驚きだよな。」
双子の漫才が始まる。息がピッタリの2人は、毎回、面白くて違うネタを用意してくれている。
「さぁ、会場が温まったところで、最後の見世物だ!これは本当に、格が違うぜ?なんと、こいつは!物心ついた頃からここに居るんだ!母体が日本より西にある、遠い遠いヨーロッパって異国で捕獲された時に、腹の中に居たんだよ。こいつの過去は悲しいもんでな。生まれて二年で、母親がなくなっちまって、海ってもんを見たことねぇらしいんだ。では、その目に焼き付けな!人魚だ!」
主様の声と共に台車によって運び込まれる。人魚だ!を合図で、水槽に掛かっている布を取られ、暗闇から一気に明るい世界へ変わる。
「あれが人魚か、日本の人魚とは違うな。」
そこかしこから、そんな声が響く。
「さぁ、それだけじゃないぜ?最後はこいつで締めよう!人魚によるショーだ!」
そのセリフを合図に、私は水槽から飛び出し、空中で一回転。他に用意されていた、広い水槽へ着水し、今日1番の歓声が上がる。
主様のセリフに合わせ、輪の泡を作ったり、水の中で踊ったり、いつものように芸を楽しんだ。
そう、私は母親が亡くなってから、母の代わりに見世物にされている、人魚だ。
小さい頃からずっとしていることなので、悲しくはない。慣れたというか、今は楽しんでいる。私は所詮、主様が居なければ生きていけないのだから。
「特に、驚くべきはこの事実!何が凄いかって?みんなもお気付きであろう。こいつだけ、れっきとした人間では無いのだ!そう、人外!!」
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