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「──村正は『日の出づる方より、日の沈む方へと落ちた雷』などと言わなかったか?」
「あー……あぁ、その通りに言っていたような。
それをどうしてお侍さんが? それも、風の噂で?」
男はまたも怪しく笑っているが、商人には一向に話が見えない。
男は心優しく、その事情を事細かに語った。
「私も見たのだ。一月ほど前だったか。東より西へ、雷のような輝きが落ちていく所を。
夜が昼間のように明るくなるほどに輝き、尾を引いていた」
「へぇ! ってぇと、本当に雷を──」
「だが雷ではない。本物の雷はもっと早く、もっと尖っている」
「……雷が尖っているってぇのは、そんな見てわかるものですかねぇ?」
「空から地へと落ちる所が見えぬというのか? ……いや、それは別件としよう。
つまり件の物は雷ではなく、本当に空から落ちてきた物であろう。打ったというのだから、鉄に似た鉱石だろうか」
語られれば語られるほど、今度はその話が眉唾物のように思えてきた。
逸品などと呼んだが、そんなお伽噺が実在するものかと商人は疑ったのだ。
その様子を悟った男は、自らの懐へと手を伸ばした。
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