2人が本棚に入れています
本棚に追加
商人は己の今までの態度を思い出しながら、恐る恐る口を開く。
「あ……あなたは、まさか、柳生──」
「言ったであろう。私は柳之助だと。過ぎた夢を追う、一介の老いぼれに過ぎん」
男は刀を鞘へ納めて立ち上がり、富士の山へと深く敬礼した。
「いやはや、正しく逸品という他に無い。年甲斐もなく、小躍りしてしまうな。
此度の件には礼を言う。達者でな」
男はそう言って、早々に立ち去ってしまった。
ひと振りばかりで満足していない。もっと試したい──背中がそう語っていた。
ただ一人残された商人は呆気にとられて、何気なしに富士の山を眺めた。
すると、ふと違和感があった。
「……はて。富士の山は三角じゃなかったかねぇ?
あれじゃあまるで、天辺が平らじゃねぇか?」
最初のコメントを投稿しよう!