富士断ち

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商人は己の今までの態度を思い出しながら、恐る恐る口を開く。 「あ……あなたは、まさか、柳生──」 「言ったであろう。私は柳之助(・・・)だと。過ぎた夢を追う、一介の老いぼれに過ぎん」 男は刀を鞘へ納めて立ち上がり、富士の山へと深く敬礼した。 「いやはや、正しく逸品という他に無い。年甲斐もなく、小躍(こおど)りしてしまうな。 此度(こたび)の件には礼を言う。達者でな」 男はそう言って、早々に立ち去ってしまった。 ひと振りばかりで満足していない。もっと試したい──背中がそう語っていた。 ただ一人残された商人は呆気にとられて、何気なしに富士の山を眺めた。 すると、ふと違和感があった。 「……はて。富士の山は三角(・・・・・・・)じゃなかったかねぇ? あれじゃあまるで、天辺が平ら(・・・・・)じゃねぇか?」
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