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<笹嶋 つかさ様
初めまして。私は江波敬一郎と申します。あなたの父親、江波祐二の義理の息子です。突然のお手紙さぞ驚かれたことでしょう。
じつは、現在義父は病の床に就き、医師からも余命わずかと宣告されました。義父自身それを理解し、旅立つ準備をしています。
ただ一つ、義父には心残りがあると言っています。死ぬ前にあなたと、あなたのお母様にもう一度会って話がしたいそうです。できることならば義父の最期の望みを叶えてやりたく筆をとったしだいです……>
その後は退屈な文章が続き、最後に電話番号とメールアドレスが書かれていた。知らない人間に電話はかけづらかったのでメールを送った。メルアドならいくらでも変更ができる
どうせ死ぬなら恨みごとの一つくらいぶちまけてやるのもいいだろう。離婚後の私と母がどんなに苦労したのか。
連絡がついた直近の週末に、私は父の住まいへ出向くことになったのだ。
常磐線普通列車の下りで東京から二時間以上かかる田舎町。私の知る限り父とはなんの縁もない土地だ。
次の停車駅は無人駅だった。現在地はおろか周辺の見取り図さえ設置されていない。
駅のロータリーには地元の軽トラックが一台止まっているだけで他の車は見当たらない。タクシーなんて拾えそうもなかった。
「これで迷わずたどり着けたとしたら奇跡よね」
ナビアプリには目的地の住所を登録してあるけど、早速使うことになるとは思わなかった。
私はスマホを片手に歩き出す。
「ちょ、ちょっと待った!」
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