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「着きました。ここが江波さんの家です」
屋根は臙脂色で外壁は白。庭付き一戸建てでおまけにカーポート付き。あの人の家とは思えなかった。私や母には手が届かない一軒家。あの男は新しい家族とこの家で暮らしている。
私は敬一郎氏の後について玄関に入った。
「ただいま、ちゃんと来てくれたよ」
敬一郎氏の声に、奥から女性が出てきた。彼女は私を見て一瞬「えっ」と一歩後ずさりした。やはり男と間違えてられていたらしい。
「こんな何もないとこへよくお越しくださいました。私は昌美と申します」
年は父と同じくらい。お世辞にも美人とは言えないけど笑顔が可愛らしい人だ。敬一郎さんによく似ている。
「母です」
この二人が親子であることを疑う余地はないだろう。
彼女が父と結婚したのか。母とはずいぶんちがうタイプだ。
「今日来ていただいてよかったです。江波の体調もいいみたいで……やっと会えるって喜んでいたんですよ」
喜ぶ? 私と母を裏切って若い女に逃避したくせに。
「さあ、どうぞお上がりください」
靴を脱いだ私は、一階にある床の間へと通された。
「あなた、つかささんが来てくれましたよ」
昌美さんの後に続いて部屋に入った私の足は止まった。
介護用のベッドに横たわった男がそこで私を見据えていたからだ。医療用の酸素ボンベがそばに置いてある。還暦までには二、三年あるはずなのに、皮膚は黒ずみ七十、八十歳の老人のように疲れ切っていた。
まるで知らない男のようだ
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