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「いい人に巡り会えてよかったわね。母はずっと独りよ」
気づけば私の口からは嫌味しか出てこなかった。
「私を大学まで行かせるのに看護師として復帰したの。仕事一筋だったからよそ見している暇もなかったのよ」
それもこれも父が慰謝料も養育費もまともに払ってくれなかったせいだ。会社が潰れたなら潰れたなりの誠意の見せ方があるだろうに。
「私は、本当に、馬鹿なことを、した。若い女に、うつつを抜かして、お前たちを、苦しめ、た……」
父は胸の内を語りながら、血でも吐き出すのではないかと怖くなった。それだけ苦しいと伝わってくるものがあったのだ。私の良心に訴えかけているのだろうか。
「すま、すまなかった、本当に、すかなかったぁ~……ゲホっ、ウェっ」
咳が止まらなくなり、昌美さんは父の口からずれかけた酸素マスクを付け直した。
「……」
「そう、ゆっくり吸って」「その調子よ」と昌美さんの声かけで呼吸のリズムが安定してきた。
私は堪らずその場から逃げ出していた。父に罰が当たったと思った。でも支えてくれる家族の存在を見せつけられて、悔しくて自分が情けない。
「つかささん、待ってください!」
追いかけてきたのはクマ男――敬一郎さんだった。
「卑怯よ、こんなやり方。私の同情を引こうとしているの?」
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