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「江波さんは、おふくろと俺に本当によくしてくれたんです。自分は最初の家族を大事にできなかったから、そのぶん新しい家族に尽くさなければいけないって」
そんなことを言って許されるとでも思っているの? あの人のせいで、突然苗字が変わった私はクラスメートからからかわれて一時は不登校になった。母だってずっと働きづめで――。
「とにかく、家の中に戻ってください」
江波家に戻ると昌美さんが私を待ち構えていた。リビングに通されソファーに座るよう勧められる。
「あの人は少し疲れたので休んでます」
昌美さんは目の前のテーブルにそっと封筒を置いた。
「これ、少しですけど……わざわざ主人のためにお越しいただいたお礼です。主人から色々聞いていたんです。慰謝料どころかお子さんの養育費も払えなかったって」
白無地の封筒だけど見た目お金であることは想像がつく。でも、少しという厚みではなかった。
「要りません。お金で買われてるみたいで不愉快です」
「そ、そんなつもりじゃ……」
昌美さんの顔からますます血の気が引いた。自分の厚意が裏目に出たときの、当然の反応だ。
「私は自分の意志でここまで来たし、もう恨み言をぶつける気はありません。そのお金はあの人の葬式なり、お墓を建てるなり好きに使ってください」
「あ、でも、それじゃ」
困惑する昌美さん。私は効果的な一言でたたみかけた。
「結構お金がかかるんですよ、お葬式とか。私も母が亡くなったときに勉強になりました」
「……!」
昌美さん親子は息を飲んだ。
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