いつも君を追いかけていた

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いつも君を追いかけていた

「雪ちゃん!」 「洸太くん!」 私は、小さい頃、いつもいつも彼に呼ばれると満遍の笑みを浮かべて走って、彼の足跡を追っていた。 「ちょっと、待ってよ!」 彼は、微笑みながら後ろを振り返っては、走っていた。 私にとっては、彼との記憶はそんなもんで、どんな顔をしていたのか、どんな人だったのかも定かではない。 ただ、なぜか、いつも、彼を追いかけていた。 「うーん…確か…」 「思い出した?」 「なんか、あだ名とかで呼んでた気がする…」 「へー、雪、そういうの、興味ないんだと思ってた」 「…どうかな?小さい時の話だし!」 「ふーん」 「加奈!」 彼女は、後ろを振り返った。 「うん?あっ!慶太!」 彼は、私達のいるところまで来て、彼女に、「ごめん!数学の教科書、貸して!お願い!」と言った。 「また、忘れたの?」 「なっ!お願い!」 「…」 彼女は、自分のところから、数学の教科書を取り出し、彼に渡した。 「後で、なんか、奢るから!」 そう言い残し、彼は、その場を去っていった。 「やっぱ、二人、仲いいね!」 「そう?彼奴とは幼馴染だしね!」 「ふーん」 「毎回、毎日毎日、言ってるけど、彼奴はないから!」 「へー」 「もう、やめてよ!」 「白石さん!」 そう呼ぶ声に振り返る。 「なんか…」 彼女は、目で、合図のように、指す。 その彼女の指した方を見て、 「先輩!」と口から出る。 彼女は、行ってこいというように、私を見る。 私は、彼のところに行った。 「先輩、どうしたんですか?」 「…あ…あのさ…」 彼は、私の腕を少し引っ張り、廊下で口を開く。 「あ…えーと…ごめんね…急に」 「いいえ…」 「今日さ、放課後…会える?」 「あ…えーと…はい…」 「本当に?」 「…はい」 下を俯いた感じで照れながら。 「…じゃあ…終わったら…」 「はい…」 彼は、その場を去っていった。 彼女のところに戻ると、彼女は、ニヤニヤとした顔で私をみた。 「もしかして…」 ニヤニヤとしてしまう私。 手で顔を覆う。 「愛の告白か!」 「違うよ!」 ニヤニヤとした顔で彼女はまだ私を見ている。 「あの頃は、楽しかったな」 クロゼットから出てきたアルバムを開き、そんな思い出に浸っていた。 あの放課後、私は、屋上に行ったんだ。 だけど、どんなに待っても先輩は来なかった。 甘いような苦いような。 「お母さん!」 「あっ!」 「お母さん!」 「ごめん!ごめん!」 私は、急いでそのアルバムを閉じ、下へ降りっていった。 私は、結婚したし、子供もいるし、今、とても幸せだ。 だけど、心残りがあると言えば嘘ではない。 翌日、彼に会うことはないまま、知ることになった。 「雪!」 加奈に呼ばれ、振り返る。 段々と近付いてきた彼女。 「…雪…」 彼は、唐突の転校だったらしい。 今は… 「雪!」 そう呼ばれ振り返る私。 きっとそんな夫の足あとを私は、追いかけているに、違いない。
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