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「はああ、なっさけないの~!」
あかりは呆れ顔で僕を蔑むようにいう。
「僕には僕の事情があるんだ。全然やる気のないあかりに言われたくないよ」
「ふぅ~ん、君は自分のことを棚に上げて、人のことは非難するんだ。あたしのことを見ていて苛立ったくせに」
あかりは不敵な笑みを浮かべて見せる。
その表情に、僕はようやっと気づいた。
目の前の投げやりなあかりは、まさに夢を追わなくなった今の僕自身を真似て見せつけていたのだ。あかりは絵を描くことのなくなった僕を、あからさまに非難していたのだ。
「だっ……誰がもう、絵に手をつけるかよ……。それにあかりだって、全然、部活に顔出していないじゃん」
反感を込めて言い返す僕に対し、あかりは真剣な表情でこんな提案をしてきた。
「そう言うならさ、あたしと勝負しない?」
「勝負って、何をだよ」
「もちろん、中距離走だよ。啓輔くんが勝ったら、あたしが陸上をやる。あたしが勝ったら、君が絵を再開する。いいでしょ、たくさんハンデをあげるからさ!」
あかりは頬杖をついて僕を直視し、悪戯っぽく口元を緩めた。その表情に、僕はあかりが誘ってきた理由をついに理解した。
そう、あかりは最初から、僕を自分の対戦相手に仕立てるつもりだったのだ。
あかりの思惑は僕の闘争心に火を灯した。潔く勝負を受けて立つ。
「よぉーし、やってやろうじゃん!」
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