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「これはありきたりな異世界ものモル。リンネは世界を救うために呼ばれたモル」
「はぁ。ほんとありきたりっすね」
「救うのはこの世界、乙女ゲー厶の世界モル!」
「どこがありきたりだ!」
ふと、先程自分の名前が思い浮かんだように、凛音はつっこんでしまいました。反射的なつっこみです。
本来ならそこまで状況を理解していないし、乙女ゲー?知らないですね、と言いかねないほどの知識量のはずです。普通、いろんな世界はあれど、『乙女ゲームの世界』とはっきり言葉にすることはないものです。普通異世界と言えば中世ファンタジーとかで、名前はつけられていないものじゃないのでしょうか。とにかくこの世界、異世界は異世界であっても、とても偏った異世界のようです。
モルは黒い鼻をふふんと鳴らしました。
「そうモル。ありきたりじゃないモル。ここは夢の宮学園。君はそこに入学した一年生、という設定モル」
「つまり、本当の私はここの生徒じゃない?」
「あくまで設定モル。実際の君は女子高生かもしれないし、冴えないおっさんかもしれないモル。呼び出したせいで記憶があやふやになってるモルけど、都合いいモル!」
「人の不幸を喜ぶな」
凛音のチョップはもふっとしてからモルの毛に沈みました。この毛玉、なかなかの鬼畜です。記憶のない凛音を利用しているとも言えます。帰りたいとも言わない彼女は救世主を求めるモルにとって都合の良いことでしょう。もしかしたら、自分の記憶はモルが奪ったのでは、とまで凛音は疑います。
「今の凛音は乙女ゲームの主人公モル。だから自我があやふやなのかもしれないモルね」
そういえば、と凛音は気付きます。自分の髪型がボブのような気がするし、セミロングのような気もするしポニテでもある気がします。顔の作りは決して美人ではないけれど地味に可愛い、という設定でありながらなかなかに可愛い気がします。そして決して色香を出さない制服姿。
特別凛音が幼い体型ではないのですが、細身で肉感は控えめです。
「恋愛ゲームの主人公は感情移入しやすいように作られてるモル。とくに乙女ゲームは色気控えめの地味に可愛い女の子が多いモルね」
「ふうん、少女漫画のヒロインみたいだね」
「その姿で男の子を落として欲しいモル!」
「うん。そうする事で世界平和に繋がり私は元の世界に戻れるわけだ」
話が早い凛音はそう理解しました。これまで色んな異世界ものの小説を読んできたのかもしれません。
この世界から帰還するには乙女ゲームの主人公として男子生徒と恋愛し、エンディングを迎えること。しかしそれがなぜこの世界を救う事になるのでしょうか。もっとファンタジックな世界観ならば愛が世界を救ってもおかしくはないのですが、この世界はどう見ても現代日本です。
「ただし男子は一筋縄ではいかない男子ばかりモル。だってここは、乙女ゲーム界の最果てだからモル」
顔は笑顔ですが声だけは悲壮感たっぷりに、モルは言いました。そして更に続けます。
「ここは乙女ゲームで『なんか萌えないよね』と言われ続けた攻略対象の集められた地モル。更生施設として用意された、乙女ゲームの最下層モル」
最果て、更生施設、最下層。それらは乙女ゲームにはなかなかない単語でした。
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