『ビフォア・サンライズ』シリーズと時間観

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『ビフォア・サンライズ』シリーズと時間観

2021/01/23  私はリチャード・リンクレイター監督の映画が大抵好きです。おそらく一番有名なのはジャック・ブラック主演の『スクール・オブ・ロック』だと思いますが、あれはむしろ例外的にメジャーな感じの作品で、他はもっとこう、ミニシアターっぽいやつをいっぱい撮っている監督です。  で、そういう地味めな作品群のなかで有名なのが『ビフォア・サンライズ』、『ビフォア・サンセット』、『ビフォア・ミッドナイト』の(今のところ)三部作です。これがすっごい好き。全部DVD持ってるし、最初の二作は高校生のころ英語の勉強にと思って映画を丸ごと録音してMDを聴きながらシャドーイングしてました。おかげで主演のイーサン・ホーク&ジュリー・デルピー氏の喋り方がすっかり耳に馴染んでしまい、いまだに彼らの声を聞くとなんだかこう、ほっとするというか、懐かしい気持ちになります。  で、まあ、これらの映画は簡単に言ってしまえば男女が出会って惹かれあって……というラブストーリーなんですけれど、なんでしょう、ラブストーリーと思って観たことはあまりないのですよね。というのも、このシリーズには一貫したスタイルがあって、その部分こそが魅力的だからです。恋愛! と言うよりも、人や出来事をどう描いてるかが楽しいわけです。  特徴①は、全編に渡って「とにかく主役二人が喋ってるだけ」なところ。ウィーン、パリ、ギリシャと、世界各地をほっつき歩きながらとにかく二人が喋ってるだけなんです。基本的には。あまりにも二人で喋ってるだけなものだから、三作目公開時には「8人で食事するシーン」が目玉のひとつになったぐらいです。何も爆発してないのに一大スペクタクル扱いです(だけど実際スペクタクル)。  そして特徴②は、劇中の経過時間が短いこと。一作目と三作目はだいたい一日の出来事を描いており、二作目はもっと短くて、なんと上映時間がそのまま劇中の経過時間です。ドラマ『24』のようなリアルタイム方式と言えば分かりやすいでしょうか。だから「ちょっとカフェで喋ろうか」となれば、カフェまで歩く様子もきっちり描かれるのです。  さらに特徴③は、前作公開からの経過時間が続編の年代設定とリンクしていることです。つまり、一作目の9年後に二作目が公開されているのですが、この場合、二作目の劇中設定も一作目の9年後になっているのです(二作目から三作目も同様)。  で、これらの、特に②と③の組み合わせによって、「ずっと続いてる時間のごく一部を切り取って見せてる」感がすごく強くなっていると思うのです。物語的な「そして翌日……」とか「三ヶ月後……」とかってジャンプがほとんどないおかげで、現実の9年という長さと、劇中の時間感覚にズレが生じないというか、カレンダーにピタっと収まる感じというか。伝わるでしょうか。確かにある一日、感。これが好きなのです。  だから何じゃいと言われれば特にその先はないのですが、そういう時間観みたいなものに私は惹かれます。リンクレイター監督は他にも、『Boyhood(6才のボクが、大人になるまで)』という映画で、十二年のスパンの物語を実際に十二年かけて少しずつ撮影するなんて無茶もやっているのですが(6才だった主人公が劇中でどんどん、実際に、成長していくのです!)、そういう執着みたいな部分に共感するというか、いいよね! となります。  まだまだ語りたい話題ではありますが、終わらなくなりそうなので、この辺りで切り上げます。気軽に書くのが主旨ですし。  それでは。  ちなみに、『ビフォア』シリーズぐらいの密度とリアリティラインで人物を描写しつつストーリー自体は超エンタメ、みたいなものに私は憧れています。いつかそういうの書きたい。『ビフォア』の二人がゾンビパニックに巻き込まれたらどんな話をするんだろう……とか考えちゃうのです、私は。
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