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『ベイビーわるきゅーれ』とユーモアの向き
2021/12/29
少し前に観た『ベイビーわるきゅーれ』という映画がとても面白かったです。殺し屋の女子二人組が同棲しながら依頼をこなしつつ、表の顔として普通のバイトもする……のだけど「普通」に不慣れで色々苦労しちゃう、みたいなお話で、ゆるゆるのユーモアとキレキレのアクションの組み合わせが見どころです。
で、アクションももちろん超よかったのですが、観ていてハタと気づいたことがありました。ユーモアの向きについてです。
このお話は基本、主人公二人を追っていくパートと、敵役であるヤクザの動向を追っていくパートが交互に進行していきます。ヤクザといってもそこは基本コメディなので、どちらのパートにも笑いが散りばめられています。
が、しかし。この二つのパートはユーモアの質がちょっと異なると感じました。ネタバレを避けるためにふわっと話しますが、ヤクザパートは基本、ヤクザがヤクザらしからぬことをしたり、「怖い存在」としてのシリアスな調子と実際に行われていることとのギャップで笑わせることが多いです。要するに「本人たちは大真面目だがハタから見ている観客的には笑える」という構図です。
それに対し殺し屋コンビのパートはというと、もっとこう、「本人たちの間に実在しているユーモア」感が強いんですね。こちらでも殺し屋という「怖い存在」と異様にカジュアルな態度とのギャップを笑いにしてはいるのですが、何か傾き方が違うなと感じました。状況の面白さはあるにしても、「実際に彼女たちが面白い」度合いが強いと言いますか。彼女たちがちゃんとお互いを笑わせようとしていて、それが結果的に観客目線でも笑えると言いますか。「カジュアルな殺し屋」という要素を抜いたとしても、彼女たちはきっと面白いだろうなと感じられるのです。
で、私は『ブックスマート』や『ゴーストワールド』などの映画が大好きなのですが、これらに出てくる主人公コンビも、そういえばその感があるなあ、と。『テッド』も近いかもしれません。彼らの、上手いこと言ってやろうと互いに張り合っている感じが好きです。
で、彼ら彼女らに私が好感を抱いていた理由の肝はそこだったんじゃないかと、『ベイビーわるきゅーれ』を介して今さらながらに勘付いたわけです。観客の存在とは関係なく、人が人を笑わせようとしている。その心の在り方にグッとくるものがあるのではないかと。
観客の方を向いているユーモアと、当事者間のユーモア。ものすごく当たり前で基本的なことなのだと思いますが、今まであまり、自分の中で上手く言語化できていなかった気がします。せっかくそのことに気付けたので、今後は意識してみようと思った次第です。
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